『あつまさ先生の道しるべvol.43』~不登校という選択~

子どもたちが不登校を選択する理由は

前号でふれたとおり日本では少子化の影響で、年々子どもの数が減少するなか、不登校児童生徒は10年連続で増えています。一方で、学校に行くことはできても授業に参加できないまたは学校に行くことが辛いと感じている「不登校傾向」の児童生徒も増えています。その背後には下記のような様々な理由があると思われます。

★学業的なプレッシャーから逃れるため
★学校での人間関係が上手くいかないため
★学校に行くことが精神的に負担となるため
★家庭環境が不安定であるため
★学校のカリキュラムや教育方法が子どもたちに合わないため
★学校の体制が異なる興味や才能を持っている子どもたちに合わないため

 

不登校の子どもたちに必要な支援は

  • 学業的な支援
    学業の遅れを取り戻すための個別指導の提供やオンラインで学習する機会の提供
  • 心理的な支援
    カウンセラーやメンタルヘルスの専門家による心理療法
  • 家庭環境の整備
    家族の理解と協力のもと、子どもたちが安心して話せる環境の整備
  • 社会的な支援
    学校と連携し適切な対応を協議したり地域の支援グループの協力を得て、同じような状況にある子どもたちとの交流を通じて、支え合う場の提供
  • 自己肯定感を高める支援
    子どもたちが興味を持っていることを見つけ、それを伸ばす機会を提供したり、成功体験を積むことで自己評価を高める

 

親として、不登校の子どもを支援するポイントは

1 子供の気持ちに共感し、尊重する
不登校の子どもは、学業や人間関係、学校の環境などでストレスを感じている可能性があります。まずは子どもの気持ちに耳を傾け、共感しましょう。彼らがどのような思いを抱えているのか理解することが大切です。

2 無理に登校を強要しない
登校を強制することは逆効果です。子どもが不登校を選んだ理由を尊重し、無理に登校させないようにしましょう。代わりに、家庭での学習やオンライン教育、フリースクール等を検討することも一つの方法です。

ご参考に:『vol.42 フリースクールの現状と課題』

3 専門家のサポートを受ける
学校カウンセラーや心理療法士、教育相談機関など、専門家の支援を受けることをおすすめします。彼らは子どもの心理的な健康を支援し、適切なアプローチを提供してくれます。

4 家庭内の環境を整える
家庭内のコミュニケーションを活発にし、子どもが安心して話せる環境を整えましょう。親との信頼関係が築かれることで、子どもは自分の気持ちを打ち明けやすくなります。

5 学業のサポートを提供する
不登校の子どもは学業の遅れを抱えていることが多いです。家庭での学習サポートを提供し、適切な学習環境を整えましょう。学習計画を立て、目標を共有することも大切です。

6 子どもの興味や才能を尊重する
不登校の期間を活用して、子どもの興味や才能を伸ばす機会を提供しましょう。趣味や特技を育てることで、子どもは自信を持ち、自己評価が向上します

 

変わりつつある学びの場

学校に行かない子どもたちを苦しめる「学校に行かなければ」という思い。しかし、経験者の多くは、学校ではなく、家や、ほかの場所で経験できることにも価値があるという実感を持っています。6歳~15歳の間、学校に行かなかった漫画家の棚園正一さんは、学校に行かないことも大切な経験になると話します。

「行かないなら行かないなりに、(学校に行くのと)同じぐらい大切な経験ができて。行った人に負けないぐらいすごく貴重なものだから、そんな卑下することもないと思います。いろいろ悩んでワーッて思ってたことが全部宝物になってます。何かしなきゃなっていろいろ考えてること、もうすでに行動してると思うので、焦る必要もないかなって」

棚園正一(たなぞのしょういち)

  • 1982年、愛知県生まれ。義務教育期間小・中学校の9年間を不登校をして過ごす。
  • 13歳の時に漫画家・鳥山明氏に出会い、漫画家を志す。
  • 大学入学資格(現 高卒認定)を取得し、名古屋芸術大学に進学。
  • 著書に、不登校だった自身の経験を描いた『学校へ行けない僕と9人の先生』
    『学校へ行けなかった僕と9人の友だち』(双葉社)などがある。
  • テレビ・ラジオをはじめメディア出演多数。
    不登校をテーマとした講演を全国各地で行っている。
  • 最新単行本は不登校経験者16名のエピソードをマンガで描いた『マンガで読む 学校に行きたくない君へ』(ポプラ社)
    現在、JA(農協)出版「家の光」にて『「山奥ニート」やってます。』(原作・石井あらた)を連載中。

 

また、教育学が専門の熊本大学教育学部准教授 苫野一徳さんは、不登校の問題は、いまの学校教育のあり方と関わりがあり、学びの場の多様性と変革が求められていると言います。

「みんなで同じことを同じペースで同じようなやり方で、同質性の高い学年学級制の中で、出来上がっている答えばかり勉強する。その中で空気を読み合い、サバイバルをしなきゃいけない。その苦しさがもう限界を迎えてると思いますね。もっと個の学びやペースが尊重されて、ゆるやかに共同性で支えられながら、自分で問いを立てて自分でその答えを見つけていくような、探究を中核にした学びのあり方に構造転換していきたいなと思います」

苫野一徳 (とまのいっとく)

  • 1980年兵庫県生まれ。熊本大学教育学部准教授。哲学者、教育学博士。
  • 主な著書に、『どのような教育が「よい」教育か』(講談社選書メチエ)、『「学校」をつくり直す』(河出新書)など。最新刊は『愛』(講談社現代新書)。
  • 軽井沢風越学園の設立に共同発起人として関わっている。
大切にしたいこと | 学園のこと | 軽井沢風越学園
軽井沢風越学園が大切にしたいことや学びについて。

 

学校における取り組み

学校に行きたくない…と思うのは、なにも特別なことではありません。取り巻く環境によって、どの子どもにも起こりえることです。年々増加する不登校児童生徒に対し、文部科学省や学校も少しずつ取り組みを始めています。たとえば、不登校とならないための魅力ある学校づくりのために、地域の団体・企業等と連携し、子どもたちが社会との結びつきを強めるような体験活動を実施したり、学校外の人材に協力を要請し、多様な学習の機会を提供したりしています。また、きめ細かく柔軟な対応できるように保健室や相談室など学校内の居場所を充実させたり、スクールカウンセラーと教職員が連携して協力できるように研修を行ったりしています。

さらに休み時間の過ごし方や登下校時間の子どもの様子を観察し、いつもと様子が違うと感じたときにはさりげなく声をかけたり、なにか起きたときには担任一人だけが対応するのではなく、スクールカウンセラーや学年職員、養護教諭などを中心に子どもとつながりのある教職員がチームとなって子どもに対応したりしています。

 

COCOLOプランとは

文部科学省が、2023月3月に、不登校の子どもたちへの支援についてまとめた「誰一人取り残さない学びの保障 COCOLOプラン」は、学びの機会が得られない不登校の子どもたちをゼロにすることを目指した対策です。このプランは、不登校の児童生徒全ての学びの場を確保し、学びたいと思った時に学べる環境を整えることを目指しています。具体的には、不登校の児童生徒に応じた多様な支援を行う教育支援センターや不登校特例校、教育委員会等との連携を強化し、学校の風土の「見える化」を通して、学校を「みんなが安心して学べる」場所にすることを実現します。

【参考資料】

誰一人取り残されない学びの保障に向けた不登校対策(COCOLOプラン)について:文部科学省

 

あつまさ先生
あつまさ先生

学校に行く子も行かない子も、学びの機会が保障される社会へ、新しい取り組みは少しずつ広がりを見せています。


 

次回は、学びの新たな選択肢「学びの多様化学校」とは
【公開予定日:2024年5月29日(水)】